2010年3月13日土曜日

いちごがり

 
今日の帰宅途中、メトロでのこと


なんだか疲れて、しっとり、どんより



私が降りる駅の1つ前で乗り込んできた
ヘミングウェイのようないでたちのおじさんが、
だらんと座っている私の前に立った。


アウトドアブランドの赤いウィンドブレーカーに
同じブランドの赤いキャップ。
黒いリュックから文庫本を取り出し、
リュックのポケットから老眼鏡も取り出す。
そして老眼鏡のケースがおじさんの手からすべって落ちる。

わたし、ナイスキャッチ。


ぱっと見た感じ、白髪で白いひげだが、
身につけているもののせいか、
しゃんとずっしりした体格のせいか、
すぐに席を譲ろうとは思わなかった。けど、
ちょうどキャッチしたケースを渡すついでに、
座席も譲った。


おじさんはやはり、
「いいですよ」と断って、私を席に押し戻したが、
「次で降りるから」といって、座ってもらう。
「そう?ありがとう」と、丁寧にお礼を言って、
読書を始めたおじさん。


地下を走るメトロの窓ガラスに映る
自分の顔と向き合ってみたり、
車内をながめたり。



そろそろ駅かなぁー
何食べようかなぁー



つんつんと私のコートの袖口がひっぱられる。
老眼鏡をずらして私を見たおじさんが
帝国ホテルの紙袋からいちごを一粒とりだした。

「おいしいから食べなさい」と真顔で言われ、
私は右手でつり革につかまったまま、左手でいちごを受けとる。
そのまま口へ。



「あまい。摘んできたんですか?」と訪ねると、
茨城のいちご農家さんにいただいたと。


私はおもわずにやけてしまい、ごちそうさまです、と
おじさんに手を振って、いちごの残りをかじりながら電車を降りた。



うれしくて、元気が出てきて、
いちごのへたを手に持ったまま
渋谷の人ごみを歩く。


まるでお守りのように可愛い
いちごのへたを自慢げにマーチ。



2010年3月6日土曜日

きせつはずれ

今年も来ました熱帯夜
待ってました熱帯夜
重たい湿気た空気と拒みようのない熱気

体中にまとわり付いて おかげでシーツも枕も汗でびっしょり
ぬぐえない疲労と額ににじむ汗を微かに感じ
浅い眠りへ夢が手招く…

そして種は目を覚ますんだ
大量の汗と月明かりを栄養に
シーツや枕からいっせいに小さな芽が出て
次の瞬間 みしみしと茎が生え 蔦が伸び体中に巻き付いてくるんだ
動けなくなったとわかったら
ぽん ぽん ぽんっとやたらきれいな花を咲かせて
感覚が狂うような甘く芳ばしい媚薬を飛ばしやがる
そして全開の窓から小さな鳥やら虫やらが
花の魔力にすいよせられるようにわいわいやってくるんだ
今夜の御馳走と 花の蜜を求めて体中を這い回ったりつっついたり
くすぐったくて 何だか悔しくて泣き笑いの 生き地獄
こっちには誰一人目もくれずやつらは甘い蜜に酔いしれて
秘密のパーティーは楽しく妖しく続くんだ
そして
夜も夜半を過ぎた頃やつらは満足顔でお互いにハグなんてして
幸せそうに家に帰っていくんだ

静まりかえったいつもの部屋で我に返ってみたものの
改めて熱帯夜パーティーの生贄になってしまったと
とうてい信じ難い出来事に心奪われたまま
冷や汗までも出し尽くしたかのように疲労し
甘い花の匂いと暑さにからだも意識もしびれ 気絶寸前

その瞬間 ふととなりで眠る君の熱い寝息が汗に湿った肌にひんやり
伝わるんだ
そんな時 熱帯夜は最高だと思うんだ
君もどうせ眉間にしわ寄せて寝てるんだろ
明日の生贄は君かもしれない
そんな熱帯夜が好きだ
祭りの後も大好きだ



エベレストよりも右が気になる




エベレスト第一ベースキャンプ(チベット側)